第20回 今治警察署玉川駐在所主任・巡査部長 髙野 友倫 氏



髙野 友倫 氏

国道317号線を松山方面に向かっていると、鈍川温泉と玉川ダムとの分岐点にある今治警察署玉川駐在所。ここにいるおまわりさんは、警察官でありながら、町の子どもたちからも「高野さ~ん」と呼ばれています。
いつも町の各所で高野さんの姿を見かけます。玉川での勤務も5年目となったそうです。「僕は玉川の町、ここの人が好きなんですよ」と笑顔の高野さん。
去年(平成27年)10月には警察関係団体「JPいきがい振興財団」の地域安全功労賞を受賞されました。高野さんの笑顔の原動力を知りたくて、高野友倫巡査部長を駐在所にお訪ねしました。

スタッフ:
先ず、簡単なプロフィールをお願いします。
高野巡査部長:
高野友倫(ともみち)です。歳は今年で41歳、正式役職名は「今治警察署地域課玉川駐在所主任」で階級は巡査部長です。
今治市高橋出身なので玉川町は隣町といいますか、地元という意識が強いです。
警察官になったのは少し遅くて、平成16年4月採用で、29歳の頃でした。転勤族で松山西署、西条西署、今治署、県警本部、八幡浜と異動していますが、12年のうち、玉川も入れて8年が今治勤務です。
スタッフ:
初歩的なことをお聞きしますが、そもそも交番と駐在所の違いはなんですか?
高野巡査部長:
ここは駐在所です。いつでもどなたでも訪ねてもらっていい所ですので、24時間、出入口の鍵はかかっていません。私が巡回などで不在の時は、今治署へ直通の電話がありますので、これを使っていただくと本署につながるようになっています。交番は、何人かの警察官が交代で詰めている所、駐在所は一人の警察官が駐在している所で、ここは私が常に駐在して仕事しておりますし、隣接する建物が家族と暮らす住居になっています。
スタッフ:
玉川町が一番長い赴任地とのことですが、玉川の良いこと悪いことも含めた「地域性」はどんなところでしょう。
高野巡査部長:
旧越智郡の玉川、朝倉、菊間は今治市内でも群を抜いて治安が良く、青少年の補導も少ないのが特徴です。だからと言って安心なわけではなく、今はやりの特殊詐欺(振り込め詐欺・オレオレ詐欺など)等は発生しています。高齢者の多い玉川では狙われやすいので、巡回はもとより、老人クラブの会や、社会福祉協議会主催の地域のサロン等に出向き、事例を話したり寸劇など見ていただき、犯罪に巻き込まれないよう啓発に力を入れています。
高野巡査部長:
あと、玉川は山間地なので交通事故も比較的少ないですが、登下校の子ども達に声をかけたり、自転車の人に注意を促したりしています。全国を通じて高齢者事故が増加しています。そこで、高齢者の免許証の自主返納制度などもあります。高齢者の運転は事故の引き金になることがありますが、移動手段として田舎暮らしには車は欠かせません。免許がなくなったら、買い物や病院に行けないという不安が大きい。そのことが高齢になっても自主返納できない大きな理由になっている。
そこで、例えば介護の認定を受けると週1回の買い物支援の制度が受けられることや、介護認定がない場合は500円で宅配してもらえる民間のサービスがあることなど、さまざまな情報提供をします。更に、自分で外出したければ、免許なしで乗れる電動四輪車の講習やレンタルもありますよとか。
どのサービスを選ばれるかはご本人やご家族が決めることですが、情報を得ることで不安が取り除かれることが多い。場合によっては、包括支援センターにもおつなぎしています。
スタッフ:
なるほど、そんなサービスが受けられると知れば、安心して免許証を自主的に返そうかなと思いますね。ところで、去年10月には警察関係団体「JPいきがい振興財団」の地域安全功労賞を受賞されましが、どのような活動が受賞の対象になったのでしょうか?
高野巡査部長:
以前から認知症対策には力を入れているのですが、認知症の顕著な症状である「迷い老人」の場合、被害申告を受けた時、警察などの組織だけでは人員不足です。そこで地域の皆さんの応援が必要で、早く発見するために旧自治体(消防団や自治会)や包括支援センター、高齢者介護施設などとも情報を共有し、地域をあげてなるべく早く見つけ出すことのできるネットワークを作る、そのお手伝いをしたことが、取り上げられたのだと思います。
スタッフ:
今治市で行方が分らない高齢者を探してくれる「いまからネット」という制度もできましたね。でも、あまり詳しい内容まで知らない方も多いのでは?
高野巡査部長:
「いまからねっと」は今治市の高齢介護課の管轄で、登録している人が使えるシステムです。24時間体制になっています。しかし見方を変えると、氏名性別など個人情報をすべて登録した人しか利用できなく、ご存知ない方がまだまだ多い。
スタッフ:
以前、玉川にも有線放送があった時代は、高齢者が行方不明になった時は、町民が情報を共有して皆で探していました。今、それができなくてもどかしいところが正直あります。今は私たちがボランティアや市民活動をしても、個人情報の問題は各所で活動のネックになったりしますね。
高野巡査部長:
守るべき個人情報は守りつつ、共有できる情報は共有することが大事です。登録者が少ないのは個人情報を知られたくない人が多いということでしょうが、氏名を伏せ年齢や特徴だけで捜索するならもっと多くの人が利用して探せます。それを玉川でも各ボランティア団体、市民活動の団体などのネットワークを活用し、自治体も一緒になって動けば町内を網羅できますよね。 2015年1月に警察庁も含め、関係府庁省によって策定された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」などは、高齢化のすすむ玉川では是非推進したいと考えています。が、大切なのは、実際にその町で暮らす人たちが役立つものとして使っていける仕組みになっていくことで、誰かが頑張るというのでなく、地域が連携して皆で積極的にすすめることが大切だと思うんです。そのための努力は惜しみません。
スタッフ:
なるほど。今の玉川ならできそうな気がしてきましたね。実現すれば玉川町は認知症の人にも優しい町としてモデル地域になりますね。実際に暮らしに役立つシステムづくりはとても大切ですね。警察もその大切な一端を担うということですね。ところで、高野さんは、老人だけでなく小中学生にも人気があり、小学生たちからも「高野さ~ん」って呼ばれていますが、そのことについてご本人はどう感じていらっしゃいますか。
高野巡査部長:
おまわりさんでも、駐在さんでもなく、「高野さん」と気軽に声をかけてもらえることが、私の理想とするところですし、一番嬉しいことです。子どもたちが作文に僕のことを書いてくれたりすると、照れくさいけど、素直に嬉しいです。 地域の行事に出かけて行くことで、皆さんと顔見知りになったり、パトカーや制服姿の私が町に普段からいることで、犯罪の抑止にも役立ちますから(笑)
スタッフ:
私たちは玉川を元気にしたいと活動しています。お仕事とは少し離れるかもしれませんが、今回高野さんからも町の活性化について伺いたいのですが。
高野巡査部長:
地域の人たちが楽しいと思えるイベント「ツール・ド・玉川」や「グルメマラソン」で、参加された方から「参加してよかった。また参加したい。」という感想を聞くのは嬉しいことです。その為のお手伝いは喜んでいたします。安全面などは町づくりの基本ですから、その点では仕事ともつながっていますね。
世界で活躍中の新城選手に「ツール・ド・玉川はレースじゃなくイベントなのに、ストレスの無い林道をスイスイ走れるのは日本一!」と太鼓判を押してもらったりすると、サポートにも自ずと力が入りますね。それに、他県から参加の方たちから、沿道で応援してくれる人や、ボランティアの人の年齢層の高いのに驚く。町の雰囲気がいい等の話を聞くと、僕まで嬉しいです。
スタッフ:
いつやって来るかわからない選手を、風船や旗もってじいちゃんとばあちゃんが、田んぼの畦に座って待ちよる、そんな風景も玉川ならではですもんね(笑)
高野巡査部長:
地域全体が盛り上がって、みんなが安心安全を感じられるような環境を町ぐるみでつくることで、暮らしやすい楽しい町になると思います。その為に警察としてできる範囲の協力は惜しまないつもりです。
個人的には、国体も近いことですし、歴史のある鈍川温泉とも協力して、青少年やスポーツ選手の研修などをからめて活性化してほしいとも思います。そうすれば、町内の子どもたちもいい刺激を受けて、青少年の健全育成にもなりますし。今年僕も玉川で5年目を迎えますが、とにかく、町へどんどん出て行き、おひとりでも多くの方とお話しして知り合って、信頼関係を作っておきたいと思っています。その信頼関係が仕事や活動の基盤となるように思います。
スタッフ:
最後に高野さんの座右の銘がありましたら教えてください。
高野巡査部長:
当座右の銘と言うほどではありませんが、好きな映画『Dead Poets Society』の題名「いまを生きる」です。主演のロビン・ウィリアムスが大好きで彼の映画はよく観ました。映画も好き、絵画も好きです。画家で一番好きなのはクロード・モネです。
スタッフ:
エエェェ~~(全員が)あの、睡蓮の?
高野巡査部長:
意外ですか?(笑)モネの作品で私が好きな作品は「ルーアン大聖堂」でして、シリーズ化していて、構図や色が変化した作品が何百枚もあります。睡蓮もシリーズ化していますね。光の画家と言われ、点描方法を生み出したのも彼です。モネだけでも一日話せますよ(笑)それに現代画家のリャドあたりも好きです。 実は、バレー、バスケット、ゴルフ、テニスなどスポーツも大好きで、何でも興味のあることは掘り下げて知りたく、広く深く、のタイプです。
スタッフ:
お仕事もプライベートも、ほんとうに充実されているのがわかります。ま さに「いまを生きる」ですね。これからもこの玉川で、いろいろな団体や 人と連携して、安心して暮らしやすい町づくりをお願いします
編集後記:
お話をお聞きすればするほど、次々と話が深まり、広がり、時間がいくらあっても足りないくらいでした。警察官というお仕事も、ほんとうに広範囲にいたるのだということを改めて認識しました。高野氏のそれぞれの分野における情報量の多さと、探求心、そして行動力には驚くばかりでした。新オレンジプランではありませんが、認知症に限らず、どんな人もその人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現をめざすというこのプランの目標こそ、高野さんご自身のめざす町のすがたと重なる気がしました。これからもますます玉川でご活躍ください。ありがとうございました。