第4回 山本真知子氏  



山本真知子氏

今日は三反地にお住まいの山本真知子さんをお訪ねしました。工房へ案内していただきたくさんの草木染の作品を目の前にして思わず「わぁっ」。早くも興奮気味のスタッフでした。

問1 草木染を始められたのはいつ頃ですか?

 
山本さん:
昭和60年頃です。ちょうど長男が結婚し、長女が大学を卒業した頃でした。きっかけにもなるんですが、子供たちが巣立った後の『空っぽの巣』で平均寿命までの40年を心豊かに過ごす為には、この玉川で何ができるか考えました。
スタッフ:
多才でいろいろご活躍されてこられたのですが、そのなかで草木染を始められたきっかけをお話くださいませんか?
山本さん:
今も言いましたが、子育てを終えて、これからの自分の生活に何か目的を持ちたいと思ったことです。私の草木染は編み物から始まりました。小さい頃から編み物が好きで、(この日も、ご自身作の藍染めの服に手編みのベストという素敵な装いでした。)趣味で編んでいたんですが、昼間は家業を手伝い、夜、習いに行き本格的に始めました。、作品を作っていく中で私の性格もあるんですが、みんなと同じ作品は作りたくない、自分だけの作品を作りたいと思うようになりました。そんな頃、編み物の雑誌で草木染のことを知り、あっこれだ!と思いました。自分で染めた糸で自分でデザインして編んだら、もう絶対それは世界にたった一つの作品じゃないですか、それが、一つのきっかけです。
スタッフ:
そうですか、もう一つのきっかけは?
山本さん:
私は、旧今治市の本町商店街で生まれ、昭和33年に玉川に嫁いできました。今治の商店街で育った私が玉川の農家へ嫁いだものですから、あまりの生活環境の違いに笑話になるようなこともいっぱいありました。でも農家に嫁いで辛かった、辛かったと思いながら一生を終えたくなかったんです。この玉川の自然の中で生活して良かった、嫁いで来て良かったと思って一生を終えたいと思いました。それなら何をしたらいいのかと考えたのが草木染でした。自分の生き方を後悔したくなかったんですね。親に反対されて結婚したものですから。
スタッフ:
ご主人とは恋愛結婚ですか?
山本さん:
そうです。でないと農家へは嫁いできません。(笑)
スタッフ:
山本さんはずいぶん若々しくていらっしゃるんですが、お年を、伺ってもよろしいですか?
山本さん:
昭和12年(1937年)生まれです。ちょうど来月で後期高齢者の仲間入りです。

問2 私たちは、まったくと言っていい程草木染について知らないんですが、材料の草木は自生のものですか?自分で育ててそれを使って染めるんですか?

山本さん:
最初は育てることはぜんぜん頭になくて、玉川の自然の中で生活しているから、まわりにある草や木で染められると思って始めました。それまで植物にはあまり関心がなかったんです。そんな頃、近所の方に山歩きに誘われまして、法界寺の浮穴先生にご指導していただき、月に一度あちこちの山へ行きました。専門書を持って先生の後を付いて行きいろいろ教えていただきました。
よく染まる植物は、「こんなところにあります。」とか、「この木は、ここらにはありません。」とかいろいろ教えていただきました。その時、先生からムラサキとかアカネは古代からの染料だということを教わりました。
スタッフ:
浮穴先生といわれますと、政成先生ですか?
山本さん:
はい、そうです。文化財の専門委員をされていた浮穴先生です。そんなご縁もあって万葉の森へムラサキとアカネを私からお分けしたこともありますよ。
スタッフ:
いろいろ研究されたんですね。
山本さん:
はい、最初は京都へも草木染を習いに行きました。そこで、徳島の先生を紹介され、月に一回徳島へ通うようになりましたのが平成の初めだったと思います。草木染だけのつもりが、藍染にはまってしまい、先生に藍の種をもらって栽培を始めました。20年余り前になりますね。主人が亡くなって17年ですから・・・。元気な時、3年か4年は一緒に作ってもらったでしょうか。今は近くの畑で自分で育てています。(10年くらい前に藍の畑で写したもう少しお若い頃の写真も見せていただきました。)
スタッフ:
ご自分で畑もされるようになったんですね。
山本さん:
はい。そうです。ある時畑におりますと、通りかかったおじさんに「あんたあ、畑に草なんか作ってもったいない・・・」と言われたこともあります。
藍はタデ科ですから似たような草があるでしょう。(笑)
スタッフ:
発酵さすんですよね。
山本さん:
本職は、発酵させるんですが、私は、生の葉をミキサーでくだいて染める方法を徳島で教わりました。
スタッフ:
それでも藍色になるんですね。
山本さん:
藍色になりますけど藍色だけではなくて藍の色は七色です。見せましょうか? (と言われ染めた布を見せてくださいました。スタッフ一同 「わぁきれい!」)
 

問3 次に、草木染に使える植物についてお話しください。

山本さん:
藍にハ-ブ。ミントですが、アカネも山に採りに行って探すのが大変ですから植えてもいます。
ヤブマオはとてもいい色がでますし、とても元気な植物です。アカソは、このあたりでは気温が高くて育ちませんが、鈍川の奥や竜岡の奥、嵯峨址辺りにあります。
スタッフ:
よく染まるものとそうでないものがあるんですね。
山本さん:
そうです。気になって夜遅くまで専門書を読んでいると、主人に「いいかげんにせい!」とよく叱られました。私も40代と若かったので夜中一時二時まで読みました。専門書にはよく染まるものとそうでないもの詳しく書かれていますが、最初は身の回りのいろんな植物を集めて、染めて、染めて、染めて自分で経験して、わかってきました。体で覚えたということでしょうか。まず、草木染は動物性繊維(絹、ウールなど)でないと染まりません。藍染めは植物繊維でということです。
スタッフ:
お気に入りの植物はありますか?
山本さん:
ヤブマオ(藪芋麻)です。このあたりで簡単に手に入りよく染まる植物です。水が好きな植物で川の土手によく生えています。なんで気に入っているかというと、よく染まることと、緑色の茎葉で6月頃に染めると、ピンクに染まり、茎が茶色になってから染めると赤みがかった茶色に染まります。
スタッフ:
それがまたおもしろいですね。
山本さん:
だから一番困るのは、何色に染めてくださいと言われることです。染めあがったもので気に入っていただけたらどうぞといえるんですが。だから精神としては、植物が持っている色をいただくのでこちらが支配できるものではないということです。そこが化学染料と違うところです。これはこの間ヤブマオで染めたものですが、ピンクといっても本当のピンクではないですが、あおい茎葉で染めて量が多いと濃い色になるんです。
スタッフ:
量とか時間、季節によって色が変わってくるんですね。
山本さん:
そうですよ。今の季節茎はあお色ですがそれがだんだん茶色になってくるんです。アカネは、強烈なサーモンピンクに染まりますが、化学染料よりだんぜん優しい色に染まりますよ。
スタッフ:
すごいですね。体験した人でないとわかりませんね。
山本さん:
桜、梅、ヤマモモも使います。花の色は枝が持っている色素で決まるんです。桜井の綱敷天満宮で紅梅を剪定する時に枝をいただくんですが、切り口はほんとうにきれいな紅色です。
スタッフ:
絶滅の恐れのある植物は、ありますか?
山本さん:
アカネですね。根っこで増えていくんですが、少なくなってきています。もうだいぶん前ですが、京都では採集禁止の植物に指定されました。万葉集にも「茜さす むらさき野行き標野行き ・・・」額田王 の歌があるように、古代から貴重だったムラサキは、自生のものは、絶滅しています。私の持っているムラサキの根で一度染めてみましたが、紫色は出ませんでした。九州の竹田市では、町おこしでムラサキを栽培しています。ムラサキは聖徳太子の時代から高貴な色だったんです。

問4 これまでの長い間には思い出もたくさんあると思いますが?

山本さん:
好きなことをするんですから、辛いとは思ったことはありませんが、年をとり知力、体力が衰えるのは寂しいですね。そんな思いもあって、今は、あまり体力を使わない織物も楽しんでいます。
何年か前に、藍染めを煮染めしてみましたら、思いがけず七色の きれいな色になりました。それをパネルにして「万華鏡」と題をつけて県展に出品しましたところ、入選しました。自分の染めた糸で思うように表現できたときは、うれしいですね。自分のための作品づくりです。感動した風景、旅の思い出のなど自分の染めた糸でセーター、ストールに編みこみました。(美しい桜の玉川ダム湖、瀬戸の夕映え、神さまの島に架かる橋、コスモスなどの作品を見せていただきました。)
楽しかったことといえば、徳島に年に一度泊りがけの参加をしましたが、その時、四国はもちろん全国から集まった染めの好きな人たちとの夜を徹してのおしゃべりはとても楽しかったです。
スタッフ:
素晴らしい作品ばかりですね。 表現の方法も、いろいろあるんですね。
山本さん:
そうです。植物の繊維を使った織物もしています。クズ・ヤブマオ・ヒフジ など使って織ります。(素朴で、それでいてモダンな織物を見せていただきました。)
スタッフ:
ずいぶんご活躍ですが、展示会とか講習会についてお話し下さい。
山本さん:
昭和60年くらいから始めました。草木染は、準備に時間がかかるものです。平成元年のひめぎんでのロビー展に始まって、町谷の緑の相談室では平成5年から年 2回講習会を、展示会は、朝倉の古墳美術館、河野記念館などいろいろなところでしました。その他、小学生や中学生、PTA、特別支援学級での指導、老人施設へもボランティアで出かけていっしょに作品を作りました。同じ藍の葉でも、煮て染めると赤、紫グレーなどたくさんの色がでます。自然の恵みを原料にした草木染の楽しさを知って欲しいと思いました。
スタッフ:
草木染めの他にも多才でいらっしゃいますが、
山本さん:
今、家にある古いものを何かに利用したいという思いで、裂き織をしています。人生も、趣味もいろいろです。今は、毎日、毎日が、楽しいです。
スタッフ: 
最後にこれだけは知って欲しいこと、今後の活動についてお聞かせ下さい。
山本さん: 
そうですね。古代の人々は、生きるために自然と闘いその中から自然の恵みを利用して安全に暮らす知恵を日々の経験から学びました。その一つが草木染です。植物の持っている力を身にまとうことで病原菌や害虫から身を守って来たことを伝えていきたいですね。栗のいがで染めた武士の袴、産着を殺菌力が強い紅花とやまももで染めた布で作ること(山本さんはお姑さんに教えられて色ちがいで二枚用意されたそうです。)、藍で染めた(虫よけに効果があった)手甲やきゃはん、野良着など、染を趣味遊びではなく暮らしの中に取り入れて欲しいですね。昔の人の生活の知恵を学んで身の回りの植物を使って人にも自然にもやさしい染色を、日々の生活の中で生かしたいものです。 地域の高齢者の方に身の回りの植物でこんなに楽しいものがいろいろできることを知っていただきたいです。それよりも、なによりも、私が30年かかって身につけた技術をこの自然がいっぱいの玉川に残したい、そう強く思っています。
スタッフ:
一時間くらいの予定が二時間近く経ってしまいました。
すっかりお話にひきこまれてしまって時間を忘れておりました。申し訳ございません。
どうかお体に気をつけられて ますますご活躍ください。ありがとうございました。

この後、作業場やアカネ・ヤブマオ・ハーブを植えられた畑も見せていただきました。

草木染め特有のやさしい色合いの作品や織物の数々、熱心にお話し下さった山本さんの染色、織物に対する情熱にすっかり感激してしまいました。そして、山本さんがご主人との思い出を話される時の優しい表情に魅せられ、うらやましくなりました。山本さんにとって藍は愛に通じるものがあったのではないでしょうか。
必ず、山本さんの技術を玉川へ残し伝えていかなければ・・・スタッフ一同の願いです。