第23回 美術館の学芸員 藤原 敏子 氏



藤原敏子氏

玉川には宝物が沢山あり、今治市玉川近代美術館(徳生記念館)もその一つに挙げることができます。
第23回目のお客様は、美術館の学芸員藤原敏子さんです。
その宝物を活かし、一人でも多くの方に魅力を伝えることに心血を注ぐパワーは、 どこから生まれてくるのか、美術館でお聞きしてみました。

スタッフ:
こんにちは。
今日はよろしくお願い致します。最初に経歴や学芸員になったきっかけを教えてください。
藤原:
今治市出身で大学進学で高知県へ行き、卒業後は今治で一般企業に就職しました。小さな頃から絵を見るのが好きで、美術館の持つ非日常的な雰囲気にも心惹かれ、大学時代に学芸員資格を取得しました。どのような形でも、絵画や美術館に長く関わっていけたらと思っていたので、玉川近代美術館の学芸員募集を知り応募しました。
スタッフ:
そうですか。玉川近代美術館に着任されてどれくらいですか?また、玉川の印象はいかがでしたか?
藤原:
5年目になります。何もかもが初めてのことで、無我夢中の充実した5年間でした。
玉川は緑が豊かで地域がとても元気だと思います。イベントも多く、玉川の人の元気に触発されて美術館も頑張らねばと思います。美術館として、地域でのイベントなどにも積極的に参加していきたいと考えています。
スタッフ:
美術館の雰囲気が好きと言っていましたが、実際に勤めてみるとどうでしたか?
藤原:
とても感じの良い美術館でした。ただ、来館者ではなく企画・展示を行い運営する立場となると、考えていた以上に難しいことも多くありました。作品の保存と展示を両立させるため、温湿度や光の管理などに気をつけて展示を行なっています。また、雰囲気が好きと言ってくださるお客様の為にも、その持ち味を損なうことの無いよう、展示をしていきたいと思っています。
スタッフ:
光の管理に気を使うとのことでしたが、どのような調整をされるのですか?
藤原:
当館は作品1点ずつにスポットライトを当てる形をとっていて、作品によって光の強さ、明るさを変えています。
スタッフ:
エェ~!1点ずつですか?
藤原:
一口に絵画といっても材質や技法など異なりますので、その作品に合わせた照度にして、展示する順番などにも気をつけています。美術館が所蔵している絵の魅力を知っていただく常設展示は、学芸員の大切な仕事の一つで、もともと絵や美術館が好きな方は勿論ですが、普段美術館に足を運ぶ機会の少ない方にも足を運んでいただく為にはどうすればいいか、常に模索しています。
スタッフ:
普段美術館に足を運ぶ機会の少ない方にも来館してもらうには、企画展も重要になりますね。企画展は年に何回くらい開催していますか?
藤原:
年度によって異なりますが、年に1、2回開催しています。コンセプトを考え、展示作品の選定、他館との作品借用の調整など、企画立案には最低でも1年、企画展によっては何年も準備期間が必要となります。
スタッフ:
平成29年の秋に開催した「香月泰男美術館展 <私の>地球-画家の愛した世界-」は9月から12月までの期間中多くの方が来館し盛況でしたね。藤原さんが香月さんにスポットを当てたいと思ったのは、どんなところだったのでしょうか。
藤原:
企画展のコンセプトとして、所蔵作家の魅力をより深く知っていただける企画展と、故郷の良さや魅力を見直すことで故郷を誇りに思い愛する心を育てようと郷土出身作家の企画展を開催してきました。洋画家・香月泰男は所蔵作家でもあり、ふるさとや家族、身近な生命を愛し描き続けた作家です。当館のお客様にもファンが多く、所蔵作品以外にもたくさんの作品を見てみたいとの要望も多くありました。
スタッフ:
何点くらいお借りしましたか?
藤原:
画家の故郷、山口県長門市にある香月泰男美術館から62点の作品を貸していただきました。当館の所蔵は「菊花」の1点のみですから、来館者の方からはとても喜ばれました。代表作である「シベリヤ・シリーズ」の印象の強い画家ですが、今展ではそれ以外の魅力を知っていただきたく企画しました。
スタッフ:
香月さんを知らなかったけど、企画展を見て好きになったり、山口県の香月泰男美術館を訪ねたいと思った方もいたでしょうね。
藤原:
はい、そう感じてくださったお客様が沢山いらして、その意味では達成感がありました。
スタッフ:
企画展の終了が近づくと寂しくなりますよね。
藤原:
そうですね。香月泰男美術館や香月家の皆様、来館してくださった皆様に心から感謝すると共に、寂しさもこみ上げてきました。ですが、企画展終了後には、お借りした作品を無事にお返しするという重要な仕事が残っていますので、最後まで気を引き締めて行いました。
スタッフ:
準備から返却まで気の抜けない期間は、達成感と共に重い責任感を併せ持っているんですね。ところで、次の企画展の構想はいかがでしょうか?
藤原:
基本的には所蔵作家や郷土出身作家にスポットを当てたいと思っています。と同時に近年挑戦しているのは、近代洋画というコレクションのジャンルにこだわらず、多くの方に足を運んでいただける内容にすることです。平成28年度に開催した「なつかしの昭和レトロ展」は、普段美術館に足を運ぶ機会の少ない方にも美術館にご来館いただけ、ひいては所蔵作品についても知っていただける機会となりました。今後もコレクションや所蔵作家について知っていただける企画展と、コレクションの枠組みを超えて、様々な世代の人に興味を持っていたける企画展をバランス良く行っていきたいと考えています。
スタッフ:
町内の小中学生が鑑賞することがありますか?
藤原:
九和小学校の児童は、校外学習で毎年来てくれています。子ども達にも美術館を楽しんでもらえるよう、夏休みには展示室でクイズラリーを行ったり、ワークショップを開催してきました。また、子どもの頃から気軽に美術に親しむことができるよう、当館は高校生以下または18歳未満の方の観覧は無料となっております。(※平成30年2月現在)
スタッフ:
僕らの町にはこんな凄い美術館があることを誇りに思い、何度も来て欲しいですね。大人はここが徳生記念館だと認識していますが、子ども達にも知っておいて欲しいですね。
藤原:
そうですね。美術館創立者である故・徳生(とくせい)忠(ただ)常(つね)さんは玉川町鍋地出身で、東京で「丸興」という月賦販売会社を創設し成功を収められました。故郷に文化の土壌を残したいとの想いから、全資金を提供され「心温まる名画の美術館」として昭和61年12月3日に「玉川近代美術館(徳生記念館)」を開館されました。徳生さんの想いを後世に伝えていくことも美術館の大切な使命だと思っています。
スタッフ:
そうですね。ところで、玉川近代美術館にはどのような作品が、何点くらいありますか?また、展示替えは何回くらい行っていますか?
藤原:
コレクションは約380点あり、黒田清輝、藤島武二ら近代洋画の大家から、中村彝(つね)、松本竣介などの異色画家、今治市出身の野間仁根などを収蔵しています。さらに、ピカソ、シャガール、ダリなどの海外作品もあり、近代洋画の変遷を幅広くご覧いただけます。展示替えは年に4、5回行っています。
スタッフ:
ミュージアムメイトについて教えてください。
藤原:
平成25年度に地域が盛り立てる玉川近代美術館のあり方を検討した結果、「ミュージアムメイト」というボランティアグループが結成されました。平成30年2月現在、35名の方が登録されています。月1回の定例会のほか、展示替えの補助、資料整理の補助、体験やイベントの補助、学習支援活動の補助、館内外の美化活動など様々なことでお手伝いいただいています。メイトさんの手助けによって実現できたイベントやワークショップも多く、心から感謝しています。これからもミュージアムメイトの皆様と共に美術館を盛り上げていきたいです。美術館の活動に興味のある方は、玉川近代美術館までお気軽にお問い合わせください。
スタッフ:
玉川地域からの来館者数はどうでしょうか?
藤原:
企画展の開催などによって、玉川や今治市内からの来館者も増えてきましたが、まだ訪れたことのない方も多いのではないかと思います。ホームページなどから展覧会情報を得て来館され、「ここは静かでゆっくり落ち着いて鑑賞できるのがいいですね。」と言ってくださる来館者の方も多いです。
スタッフ:
MAYA MAXXさんの美術トークやワークショップなどのイベントも人気ですね。
藤原:
はい。MAYA MAXXさんの美術トークはMAYAさん個人の魅力と共に、画家ならではの視点での解説で、新たな絵画の楽しみ方を教えてくれて毎回好評を得ています。ワークショップは生涯学習の一環として、また、美術館に気軽に足を運び親しみを持ってもらうきっかけ作りとして、絵手紙や染紙教室、物作りのワークショップのほか、コンサートなどを実施してきました。
スタッフ:
いろいろお聞きしてきましたが、今後の美術館の催しなどのお知らせはありますか?
藤原:
はい。国宝「伊予国奈良原山経塚出土品(いよのくにならはらやまきょうづかしゅつどひん)」春の一般公開を平成30年4月7日(土)から5月6日(日)まで開催します。平成28年度に文化庁の補助事業を得て、保存の観点から常設展示や館外での展示が難しい資料を高画質で撮影し、タブレットで見てもらえるようにしました。玉川近代美術館では浮世絵と国宝が対象になり、通常の展示では見ることができない部分も、タブレットで拡大してより詳しく見ていただけるようになりました。
スタッフ:
国宝はケースの中に展示されていますし、手元で拡大できるタブレットは嬉しいですね。通常の展示では見ることのできない部分とは具体的にどのようなところですか?
藤原:
例えば、銅経筒の底には、鳥などの彫刻が施された鏡の背面を内側にしてはめ込んでいますが、展示では蓋がされていて底の部分を見ることはできません。また、銅宝塔胴体に線刻されている種字曼荼羅は、タブレットで拡大するとより鮮明に見ることができ、平安時代の技術の高さを知ることができます。今までに国宝をご覧になったことがある方もタブレットと合わせて鑑賞することで新たな発見があると思いますので、この機会にぜひお越しください。
スタッフ:
それは、とても魅了的で公開が待たれますね。そのタブレットは、貸し出しをするようになりますか。
藤原:
台数は限られますが、希望者へ館内で貸し出しを行うほか、学芸員の解説でも使用します。
スタッフ:
素晴らしいですね。資料を大切に守ることも重要ですが、新しいことにも挑戦して進化することも必要ですね。新しいことと言えば「玉美公募写真展~玉川の良いとこ発見~」が開催されましたね。
藤原:
はい。3回目となった今展は市内外から65点の応募があり、最優秀賞をトップに10点が入賞し、玉川の特産品などの賞品が授与されました。玉川の方からは「こんなにきれいなとこがあるんを知らんかった」、町外の方からは「こんなにいいところなら、行ってみたい」との感想をいただきました。
スタッフ:
玉川は山あり、渓谷あり、温泉あり、湖ありと被写体は豊富ですから。
藤原:
同じ場所でも撮る人によって全く違った写真になり、一人一人が見つけた玉川の魅力を展示することで、共有して広く発信していけたらと考えています。多くの方が玉川を訪れ、沢山いいところを発見してもらえたら嬉しいです。
スタッフ:
そうですね。玉川サイコーも美術館とコラボするようなイベントに積極的に取り組みたいと思います。今日は長時間ありがとうございました。
編集後記:
所蔵作品の管理、各種イベントの企画、運営に携わる学芸員の仕事がどのようなものか、全く未知の世界でした。玉川ならではの特徴を生かしながら、町内外のお客様の誘致を最大限にするための奮闘振りをお聞きすることができ、その心意気はまさしく創始者の徳生氏と同じく強い郷土愛だと感じました。是を読んでくださった方が一人でも多く玉川近代美術館を訪ねてくださることを切にお願い致します。
平成30年2月