・・・白玉の見が欲しみおもわ ただ向ひ見む時までは 松かへの栄えいまさね・・・
大伴家持 巻十九-4169
真珠のように見たいと思うお顔、そのお顔を目の当たりに見る時までは、ときわの松や柏のようにお変わりなく元気でおられますように。
天平勝宝二年(七五〇年)四月頃、家持が越中守として赴任中、妻の坂上大嬢が来た時託して都の母坂上郎女に贈った長歌です。松柏は栄ゆの枕詞として用いられています。松柏類として短い針葉を持つコノテガシワ、ヒノキ、サワラ、などをさしていました。柏の語源は変えずに由来し常緑の意からきているといわれています。カヤとイヌガヤ(いぬがや科)は古い時代はともにかへといわれています。カヤとイヌガヤは葉の上面の中央脈が見える(イヌガヤ)と見えない(カヤ)の違いで区別できます。ここではカヤを取り上げました。
カヤは谷筋に多い雌雄異株の針葉樹で成長は遅く、建築材(土合、浴室用材)、器具材(桶類特に風呂桶)、漆器木地、仏像、念珠等に、特に碁盤、将棋盤としては最高、種子は食用、薬用として十二指腸虫の駆除に、葉は蚊遣りの原料に用いられます。町内の光林寺に天然記念物(町指定)がありますが、埋土隙害でかなり衰弱しているのは残念です。
上毛野の安蘇山つづら野を広み 延ひにしものをあぜか絶えせむ
作者不詳 巻十四-3434
上毛野の安蘇山のつづら、このつづらは野が広いので一面に這い広がっているのに、何で今さら絶えてしまうことがあろうか。
安蘇山は栃木県安蘇郡の山地、あるいは群馬県箕郷付近、もとは群馬栃木両県に誇る広い地域。つづらはつる植物の総称、あるいはつるで編んだ籠のことで、植物としてはつづらやくずがあげられます。
アオツヅラフジはつる性の落葉木本植物でつるが緑色をしているのでこの名がありますが、枯れると黒色になります。つるはつづら細工に、根は利尿剤として用いられます。
山吹のにほへる妹がはねず色の 赤裳の姿夢に見えつつ
作者不詳 巻十一-2786
咲きにおう山吹の花のようにあでやかな娘の、はねず色の赤裳を着けた姿、その姿が夢に見え見えして。
はねずはニワウメの他にモクレン、フヨウ、ヤマナシ、ザクロ、ツユクサなど多くの説がありますが、ニワウメ説が定説です。
ニワウメは中国原産で、古くから渡来栽植されている落葉小低木で、別名をコウメといわれています。実は食用に、核は利尿、虫歯などの漢方薬に、花は観賞用にします。
南淵の細川山に立つ檀 弓束まくまで人に知らえじ
作者不詳 巻七-1330
南淵の細川山に立っている檀の木よ、お前を弓に仕上げて弓束を巻くまで人に知られたくないものだ。
南淵は奈良県明日香村の稲淵の一帯、細川山は岡寺の東南細川に臨む山。弓束は弓の中程左手で握る部分、ここに桜皮や革を巻きつけます。
マユミは落葉性の小高本で雌雄異株。高さは七m位になります。若い枝には白いすじ、初夏に淡緑色の花が前年枝の上部に十数個ばらばらにつきます。材は室内装飾材、旋作材、櫛、印判、将棋の駒等にします。細木を皮付のまま弓にしたのでこの名があります。実、葉を食べると吐気、下痢の中毒症状を起こします。