万葉の森(20) 植物園づくり

『万葉の森』(2)、(3)(広報たまがわ二〇〇〇年七・八月号)で万葉植物の木本類七十八種、草本類八十三種を皆様にご紹介しました。そのうち木本類につきましては、五十種余りを植栽し標柱も立ちました。新年度は皆さんのご協力もいただいて草本類の植付けを進め、夏頃までに万葉植物園を開園したいと思っています。
草本類は文字通り草のことで、茎の形成層が一年で働きをやめるため、木部が二次的に肥大することはありません。一年草、越年草(二年草)、多年草に分かれる植物で、木本類と違って手間のかかる厄介な植物です。昔はたくさんあったという山野草が絶滅したり、絶滅寸前の植物もあります。これから『万葉の森』に掲げる植物がどこかで見つかったときにはお知らせいただければ助かります。

10 アサザ[万葉名:あざさ(みつがしわ科)]

・・・蜷(みな)の腸(わた)、か黒き髪に真木綿(まゆふ)もち、あざさ結ひ垂れ大和の黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)を抑(おさ)へ挿す、うらぐはし子それそわが妻(長歌)

作者不詳 巻十三-3295

アサザは多年生の浮葉植物、花は六~八月、黄色の五弁花を開きます。若葉は食用、花は髪飾り(結い垂れ)に。

150 マツタケ [万葉名:あきのか(まつたけ科)]

高松の この峰も狭(せ)に 笠立てて 満ち盛りたる 秋の香(か)のよさ

作者不詳 巻+-2233

マツタケは主にアカマツの林に発生する菌根をつくるキノコで、樹齢二十~三十年のアカマツの根と共生しています。食用。

132 ヒトリシズカ・フタリシズ力 [万葉名:つぎね(せんりょう科)]

つぎねふ山城路(やましろじ)を人夫(ひとつま)の馬より行くに 己夫(おのつま)し徒歩(かち)より行けば…… (長歌)

作者不詳 巻十三-3314

ヒトリシズカは花穂が一本、二本以上はフタリシズカ、早春、白色の細花を穂状につけます。根を薬用としてはれもの、できものに使います。

14 バイモ [万葉名:はは(ゆり科)]

時ときの 花は咲けども 何すれそ 母とふ花の 咲き出来(でこ)ずけむ

丈部真麻呂(はせべのままろ)巻二十-4323

多年草、花は三月から四月の初め頃、茎の先に近い葉腋に一つずつ下向きの花をつけます。別名のアミガサユリは花被の形が編笠に似ていることからつきました。中国原産の薬用植物ですが今は切花にも使われています。鱗茎がせきどめ、去痰など漢方薬として用い られます。

38 オミナエシ[万葉名:をみなへし(オミナエシ科)]

手に取れば 袖さへにほふ おみなへし この白露に 散らまく惜しむ

作者不詳 巻+-1905

オミナエシは秋の七草の一つ。全国各地に野生していましたが、玉川町内でも野生のオミナエシはほとんど見られなくなりました。家庭で見かけるのは園芸品種のオミナエシがほとんどです。万葉人は若葉を食用、根茎を浄血、解毒、利尿に、花を染色、観賞に使ったようです。