今年もハマユウの花が咲きました。
み熊野の 浦の浜木綿(はまゆふ) 百重(ももえ)なす 心は思へど ただに逢はぬかも
柿本人麻呂 巻四-496
「熊野の浦に生える浜木綿が幾重にも重なっているように、心では幾重にも思っていても、直接に逢う機会がないのが残念です。」
万葉集中一首ですが、今咲いているインドハマユウでは歌に沿わないことが分かりました。熱帯アジア(インド)原産のインドハマユウは一八〇六年に欧州に紹介され、日本への渡来は昭和初年となっています。万葉時代にはなかった植物で適切ではないというわけです。 ハマユウの仲間は百種以上ありますが、日本には一種ハマオモトがあるだけですから万葉人との出会いはハマオモトに限られます。原産は沖縄、九州、四国、紀州などの暖地、海岸砂地に生じる大型常緑の多年草。紀州にもあるので柿本人麻呂との出会いは当然です。ハマオモトの和名は葉がオモトに似ているので浜万年青(はまおもと)の名がつきました。別名の浜木綿(はまゆう)は白い花が木綿に似ているとか、幾重にも重なる白い葉鞘部が木綿(ゆう)で作った祭礼用の幣(ぬさ)に似ているとも言われます。(木綿はコウゾの皮からとった糸のことです)ハマオモトでないと白い木綿の姿に見えないこと、日本産であることが決定付けています。 耐寒性の強いインドハマユウは花も美しいので教材植物として植えるのはよいのですが、万葉の植物としては失格でした。一首の歌に二種以上の植物が登場している場合、妥当な一種を選び出すのは大変ですが、万葉の森づくりには欠かせない仕事です。
集中一首の植物ですが五種の水生植物が登場しています。歌の中に「…引かばぬるぬる…」とあるのでジュンサイを取り上げる人、ヒルムシロだという人などいろいろです。決定はこれからの課題です。
万葉名も和名もツバキです。集中九首ありますがいずれもヤブツバキを詠んだものです。園芸種が多いので六・七月を除けば年中花を見ることができますが、ナツツバキは愛媛県産の野生種で六月咲き、ヒメツバキ(別名イジュ)は沖縄産の野生種で六~七月咲です。ナツツバキは別名シャラノキで寺院などによく植えられます。ヤブツバキは常緑ですがナツツバキは落葉樹です。万葉の森に植えていますが来年ぐらいの開花を期待しています。ヒメツバキは変わった形をしています。沖縄ではツバキとして扱わないでシロアリに強いので重要な建材として使われています。珍しいツバキなので小苗を作ろうと思っています。
ホオノキの実は年によって数が増減しています。筆者宅のホオノキは大木で花は無数に咲くので、人工交配を何回も試みますがなかなか実ができません。適地が海抜九〇〇メートル前後、南限が四℃より寒い地域とあるので筆者宅は海抜四十二メートル、温暖なところなので結実は難しいのだろうか。