万葉の森(46) 春の万葉植物

松山におけるウメの開花の平年値(三十年間)は一月六日で年々早くなっていく傾向にあります。開花の記録をとるのは大変ですが、植物と仲良くする手だてとして楽しい仕事の一つになりそうです。

29 ウメ(ばら科)〔万葉名…うめ(梅・烏梅)〕

わが園に 梅の花散る ひさかたの 天より雪の流れ来るかも

大伴旅人 巻五-822 万葉集中 一一九首

「わが家の庭園に梅の花が散っている。あるいは、はるか天の彼方から雪が流れて来るのであろうか」

万葉時代のウメは総て白で、この純白に心惹かれて詠んだ歌が十六首あります。どの歌も梅の白さを雪にたとえたものです。
ウメは古来日本にも自生する説と中国渡来説がありますが後者の説が有力です。古事記・日本書記にウメの記載はなく、奈良時代(七一○~七八四)の少し前、初期の遣唐使が中国文化とともにいち早く持ち帰り、急速に日本中に広がっていったのでしょう。清楚な香りとあでやかな姿、「花の兄」とも呼ばれるウメは、いち早く春の訪れを告げます。万葉時代から親しまれてきただけに、名所・名木は北海道以外の日本全国にあります。北野天満宮や太宰府天満宮は別格ですが、四国では栗林公園、県内では五十崎町の竜王公園が見どころです。近隣では桜井志々 満原に梅園があります。
ウメを愛好するのは日本、朝鮮、中国の限られた民族だけです。
ウメは日当たりがよく水はけのよい所、午前中日が当たれば充分です。

166 ヤブツバキ(つばき科)〔万葉名…つばき(椿・海石榴・都婆吉)〕

巨勢山の つらつら椿 つらつらに 見つつ思(しの)はな 巨勢の春野を

坂門人足(さかとのひとたる) 巻一54 万葉集中 九首

「巨勢山の沢山の椿をつくづく見ていると、今は花がないが、花の盛りの巨勢山の春はさぞ美しいだろう」

今はこのツバキにも多くの園芸品種が生まれていますが、万葉時代のツバキはヤブツバキ(一名ヤマツバキ)でした。葉が常緑で光沢があり、その花が美しいので古事記や日本書記にもとりあげられている日本原産の植物で日本産には次の三変種があります。

①ヤブツバキ 北限は青森で西南部に広く太平洋岸に多く分布し、日本海岸にも分布しています。常緑性の高木で五~九メートル、花期は十一月~四月下旬、落果期は九月中旬~十月です。花色は紅ですが、記紀には当時珍しいとされていた白花のツバキを天皇に献上したなどの記述があるので、昔から白花もあったようです。ツバキに限らず紅花があればどこかに白花もあるというのが植物の神秘の世界らしい。

②ユキツバキ(一名オクツバキ、サルイツバキ)日本海側の福井県から秋田県まで、積雪の多い地方に分布、常緑の小高木または低木で、自生地では樹冠直上せず、雪のため被圧され、水平樹形となり、積雪の少ない所でも幼樹から叢生状態になり、枝は灰褐色で発根しやすくなります。花はサザンカに似て、筒部が非常に短いなどヤブツバキとの区別ははっきりしています。花は紅色から深紅色ですが、ユキツバキの調査に参加したとき、純白ではありませんが白花のユキツバキを見つけました。花期は三~四月です。

③ユキバタツバキ 日本海側でユキツバキとヤブツバキの分布地帯の中間に分布するツバキです。この地帯では、葉柄の毛は最も多いもの(ユキツバキは有毛)、全くないもの(ヤブツバキは無毛)などがあり、葉の諸性質も中間的で、花の性質も中間の種々の形態を示しています。短期間の調査ではユキバタツバキはなかなかです。

つらつら椿は花が連なり咲いている椿の花の様子、あるいは並べ植えられている椿とも考えられると解釈されていますが、「つらつら椿」がツバキの品種名として掲載されている写真集を一冊だけ見つけて現在調査中です。