打つ田には稗(ひえ)は数多(あまた)にありといへど 択(え)らえしわれそ夜をひとり寝る
作者不詳 巻十一-2476
万葉集中 二首
「耕した田に稗はたくさんあるのに、えり除かれた私は夜寂しくもただ一人で寝ることだ」
これは物に寄せて思いを述べたもので、たくさん生えているヒエのなかでたまたま取り除かれたヒエにも似て、数ある男の中で自分だけが妻もなく独り寝をしなければならない、情けないことだと言っています。
ヒエには食用と雑草の二種がありますが、食用種はほとんど栽培されていません。
解衣(とききぬ)の 恋ひ乱れつつ 浮沙(うきまなご) 生きてもわれは あり渡るかも
作者不詳 巻十一-2504
万葉集中 一首
「ほどいた衣のようにちぢに思い乱れ、私は浮きまなごのように夢うつつで生きながらえています」
『ときぎぬ』は縫い糸をほどいた着物『乱る』にかかる枕詞。浮沙を水に浮かぶような細かい砂と解釈すると万葉植物とはならないので、歌意から「浮き草」が適切と判断して取り上げました。
わたつみの 沖(おき)つ縄海苔(なはのり) 来る時と 妹(いも)が待つらむ 月は経(へ)につつ
遣新羅使人 巻十五-3663
万葉集中 四首
上二句は、くる時のくるの序。くるは、縄のように長い縄のりを手繰(たぐ)るのくると来るを掛けたもの。
歌意は海の沖に生えている縄のりを繰るわけではないが、
「わたしがもう帰って来る頃と、妻は待っていることであろうに、月日がどんどん経って行く・・・。」
万葉集でなはのりと言っているのはこのウミゾウメンに限らず、このような形態や生態をもつ食用海草と思われます。(コンブ類とする説もあります。)
あしひきの 山下(やました)日蔭(ひかげ) 蘰(かづら)ける 上にやさらに 梅を賞(しの)はむ
大伴家持 巻十九-4278
万葉集中 四首
「山のひかげのかずらを髪に飾って、その上さらに梅の花を賞(め)でようというのですか」
「あしびきの」は枕詞。天平勝宝四年(七五二)十二月二十五日、新嘗祭の宴の時の大伴家持の歌です。
ヒカゲノカズラは町内奥地の山で見かけますが、和名は日影葛、影とは光の意で向陽の地に生じることを強調したものと考えられます。文字どおり日陰にはあまり生えません。栽培は困難。
わが屋戸(やど)の 穂蓼(ほたで)古幹(ふるから) 採(つ)み生(おほ)し 実になるまで 君をし待たむ
作者不詳 巻十一-2759
万葉集中 三首
「わが家の穂蓼の古い幹から穂を摘んでそれを播き、さらにそれが実のなるまであなたを待っていましょう」
タデの種類は多く、一年生の陸地生と多年生の水地生に分けられます。水地生で一年生の食用ヤナギタデは葉が辛いので、刺身のつまや薬味に用いられます。別名ホンタデというのは、これが辛味のある本当のタデという意味です。