月草(つきくさ)に衣は摺(す)らむ 朝露に ぬれて後には 移ろひぬとも
作者不詳 巻七-1351
万葉集中 九首
「月草で、衣を摺り染めにしよう。朝露にぬれてしまった後は、色あせてしまうとしても」
ツユクサはいたるところに自生している一年草、朝開いてその日の昼頃にはしおれる一日花です。小学校一、二年生の頃に花の青汁を採って何回も吸水紙にしみこませては乾かすことを繰り返して青紙を作ったことを思いだします。
若葉を食用、乾燥して利尿、臼で搗(つ)いて染料に用いたのでツキクサ。
高円(たかまど)の 野辺の客花(かほばな) おもかげに見えつつ妹(いも)は 忘れかねつも
大伴家持 巻八-1630
万葉集中 四首
「高円の野辺に咲くかほ花のように、私の妻が面影に見えて忘れることができません」
大伴家持が、その妻の坂上大嬢に送った歌。可憐なかほ花と妻の顔が重なって見え、恋しくてたまらないというのです。 ヒルガオは蔓性多年草、海辺に多いハマヒルガオも同じ仲間です。若芽や根を食用。薬用として利尿や疲労回復に用います。
かはら莢(ふじ)に 延(は)ひおぼとれる 屎葛(くそかづら) 絶(た)ゆることなく 宮仕(みやづかへ)せむ
高宮王 巻十六-3855
万葉集中 一首
「かわらふじにまといつき、広がり乱れているくそかずらの蔓のように、絶えることなくいつまでもお仕えしよう」
永く宮仕をしようという気持ちを詠んだもので、悪臭の強いくそかずらと鋭いとげのあるかわらふじ(サイカチ・ジャケツイバラ-まめ科)の組み合わせは多分に滑稽味があります。くそかずらには別名としてヤイトバナ・サオトメバナという上品な名もあります。
角島(つのしま)の 瀬戸のわかめは 人のむた 荒かりしかど 我とは和海藻(にぎめ)
作者不詳 巻十六-3871
万葉集中 二首
「角島の瀬戸で採れたわかめは、人中ではまるで荒藻(あらめ)であったようだが、私の前ではやさしい和藻(にぎめ)であってほしい」
すなおであって欲しいと相手の女性に願う歌です。
ワカメは褐藻類の海草50cm~1m、来島海峡の深い所では2m近くになります。五月頃には固くなって食用にはなりません。
みさご居(ゐ)る 磯廻(いそみ)に生(お)ふる 莫名藻(なのりそ)の 名は告(の)らしてよ 親は知るとも
山部赤人 巻三-362
万葉集中 十三首
「みさごの棲んでいる磯辺に生えているなのりそではないが、名を明かしておくれ、たとえあなたの親にしられても」
男が娘に名を聞くことは求婚を意味しています。ホンダワラは新年の飾り物に用いられたり、食用や焼いてカリ肥料として使っていましたが、今治港周辺でもほとんど見かけません。