万葉の森(54) 万葉植物

101 アオツヅラフジ(つづらふじ科)[万葉名:つづら(都豆良・黒葛)]

駿河(するが)の海おしへに生(お)ふる浜つづら 汝(いまし)を頼み 母に違(たが)ひぬ

東歌 巻十四-三三五六
集中 二首

「駿河の海に生えている浜つづらのように、長くいつまでもそなたを頼りにしていて母と仲違いしてしまった」

つづらはつる植物の総称。あるいはつるで編んだ籠のことです。あむつづらふじはつる性の落葉木本植物です。つるが緑色をしているのでこの名がありますが、枯れると黒色になります。つるは籠材、皮を土瓶敷、根は薬用で漢防己(かんぼうい)と言い利尿剤として用いられます。 鈍川の奥地には自生もありますが、万葉の森では三年目にやっと仲間に入りました。記事も初めてです。

128 ヒカゲノカズラ(ひかげのかずら科)[万葉名:ひかげ(日蔭・日影)]

万葉の森(30)に歌の解説はしています。四年目を迎えてやっと新しい植え付けが成功しました。ヒカゲノカズラは枯れても長く緑色を保っているので、花輪や卓上の飾りに使われます。酸性土を好む植物であることも分かりました。

52 キササゲ(のうぜんかずら科)[万葉名:あづさ(梓)]

梓弓(あづさゆみ) 引かばまにまに依(よ)らめども 後の心を 知りかてぬかも

石川郎女(いしかわのいらつめ) 巻二-九八
集中 三十三首

「梓弓を引くように私の心を引いてお誘いくだされば、あなたの意のままに寄り従いもしましょうが、その後のあなたの心を知ることの出来ないのが不安ですよ」

この歌には次の六種の植物が登場します。ミズメ(別名ヨグソミネバリ・かばのき科)、オノオレ(かばのき科)、キササゲ(のうぜんかずら科)、マユミ(にしきぎ科)、カヤ(いちい科)、アカメガシワ(とうだいぐさ科)。 植物学的にはミズメとこの変種としてアズサ(別名ヨグソミネバリ)を牧野富太郎博士によって記載されています。一応キササゲを取り上げてきましたが、ミズメを取り上げねばならない時期がきました。キササゲ、オノオレは材が堅くて弓材にならず、現在もミズメが弓材に適していること、アヅサの古名であること、集中三十三首は梓の木を詠んだ歌は一首もないことなど、弓の素材に由来する呼称が、引く、張る、寄る、本、末、音、春などは弓に関達した枕詞になっていることなどを考えるとミズメ説が定説となります。ヒオウギの美しい黄紅色の花の歌が一首も詠まれないで、黒い実が「ぬばたま」枕詞になっているのとどこか似ています。

115 ヌルデ(うるし科)[万葉名:かづのき(可頭乃木)]

万葉の森(12)に詳しく解説しています。今年はヌルデムシの寄生による虫こぶ(五倍子(ふし))ができたので見てください。葉軸の部分に翼があるのでウルシと容易に区別できます。

140フジバカマ(きく科)[万葉名:ふじぱかま(藤袴)]

万葉の森(32)・(39)・(45)に三回も登場しましたが、今秋やっと皆さんに楽しんでもらえる程の群生になりました。フジバカマの歌は集中一首ですが、古今葉では四首も詠まれています。万葉集(七九五年―)と古今和歌集(九〇五年)は百年あまりずれていますが、これだけ増えました。
フジバカマは奈良時代以前に中国から入り、古くは庭園などで広く植えられていたらしいのですが、現在、自生はほとんどありません。フジバカマに似たヒヨドリバナの仲間は普通に見られますが、全く香がありません。本物のフジバカマをしっかり楽しんでほしいと思います。