朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけリ
作者不詳 巻十-2104
万葉集中 五首
あさがほについては、キキョウ・ムクゲ・ヒルガオ・現代のアサガオの四説ありますが、キキョウ説が定説となっているようです。キキョウは多年草。夏秋のころ紫または白色の鐘状花を開きます。花は観賞、染色、仏事に、根は去痰、扁桃腺炎、できものなどに薬 用として利用されます。 以前は野山のどこにでも自生していましたが、今は見かけることが少なくなっています。
芝付(しばつき)の 美宇良埼(みうらさき)なる ねつこ草 逢ひ見ずあらば 吾(あれ)恋ひめやも
作者不詳 巻十四-3508
万葉集中 一首
オキナグサは日当たりのよい河原や草原などに生える多年草ですが、県内で見つけるのは困難です。果実に白い毛がつくので白頭翁とも、猫草とも呼ばれています。根は漢方で「白頭翁湯」という処方に用いられ、熱性下痢に著効があると言われています。
恋しければ袖も振らむを 武蔵野の うけらが花の 色に出(づ)なゆめ
作者不詳 巻十四-3376
万葉集中 三首
オケラは多年草。越智郡内の島々で見かけます。秋、白または淡紅色の頭状花を聞きます。“山でうまいはオケラにトトキ(ツリガネニンジン)”といわれるように、春に萌え出た若芽はおいしい山菜の一つです。
根茎は薬用として利尿・健胃・解熱などに用い、梅雨時の湿気払いやかび防ぎに使われており、万葉人の生活にとけ込んでいた薬食草であったことが伺われます。
・・・蘭(らん)恵(けい)叢(くさむら)を隔(へ)て 琴罇(きんそん)用ゐることなく 空しく令節(れいせつ)を週ぐし・・・
大伴池主書状 巻十七-3967の序
万葉集中 一首
蘭恵は供に香草で、蘭はラン科植物の総称、恵は紫(し)蘭(らん)。観賞、薬用として鱗茎を慢性胃炎・打撲傷・やけどなど、また鱗をのりにして使います。
シランは県内では三島市富郷、皿ケ嶺などの水湿地にごく稀に自生していますが、繁殖力の強い植物ですから多くの家々で栽培されています。
ひさかたの 雨も降らぬか 蓮葉(はちすは)に たまれる水の 玉に似たる見む
作者不詳 巻十六-3837
万葉集中 四首
四種ある万葉の歌には蓮葉だけ詠まれて、花の美しさを詠んでいる歌は一首もありません。これに似た例は以前にご紹介したヒオウギがありました。集中八十首もある歌にヒオウギの花の美しさには一首も触れないで、花後にできる黒色の種子を『ぬばたまの』という枕詞として利用しているもので、自然観察のするどさもさることながら、理解に苦しみます。