万葉の森(55) 万葉植物

154 ミズメ(かばのき科かばのき属)[万葉名:あづさ(梓・安豆左)]

前号に続いて取り上げた理由は、定説となっているミズメが手に入り、石棺の入口に植えたからです。ミズメの名は樹皮を傷つけると透明な水のような油がしみ出ることから。別名のヨグソミネバリ(夜糞峰榛)も同様に、この液体の匂いによってつけられたものです。匂いの正体はサリチリ酸メチルという有機酸の一種。無色の結晶体、天然には植物精油に存在、染料の中間体、皮膚病、解熱、鎮痛などの医療用、防腐剤などに利用、サリシン酸、なまってサルチル酸ともいいます。 葉は新しい長枝では互生し、長卵形次年枝から短枝には二葉ずつつきます。かばのき科かばのき属は、十一種のうち十種までは本州中部以北の産で、ミズメだけが本州(新潟県、岩手県以南)、四国、九州(鹿児島県高隈山まで)に自生します。日本国有種、雌雄同株。

126 ハンノキ(かばのき科ハンノキ属)[万葉名:はり(榛・針・波里)]

白菅(しらすげ)の 真野(まの)の榛原(はりはら) 行くさ来(く)さ 君こそ見らめ 真野の榛原

高市黒人(たけちのくろひと)の妻 巻三-二八一
集中 十四首

「白菅の生えた真野の榛の林を、旅に行くときも帰る時もあなたは見ることでしょうが、わたしは今夜の旅で初めて見るのです。もっとゆっくり見ていたいものです。」

ハンノキは以前はどこにもありましたが、稀な木になりました。各地とも元栽植したものでしたが、向陽のやや湿地がなくなったのが減少の原因です。今、植えているのは同じ仲間のヤシャビシャクですが、やっとハンノキが手に入ることになりほっとしています。

166 ヤブツバキ(つばき科)[万葉名:つばき(椿・海石榴・都婆伎)]

万葉の森(11)に詳しく解説していますが、万葉集で詠まれている椿はすべてヤブツバキで開花は春です。代表の歌「巨勢山(こせやま)のつらつら椿つらつらに見つつ思(しの)はな巨勢の春野を」にあるように春に咲く花を待ちこがれています。総合公園内もすべてヤブツバキです。サザンカも含め教材植物として一年中ツバキの花が見られるようなことを考えています。今咲いている筆者宅の椿を紹介します。

西王母(せいおうぼ) 秋咲き 原産・石川県

淡桃地に薄紅のぼかしがはいる。一重、太い筒芯、結実する。花の太さは中、葉は楕円、大きさ中、基部と先端は急に細く、中折、脈凹む。樹形は立性、樹性は強、ワビスケ系。挿し木。

初嵐(はつあらし)(白玉) 秋咲き 原産・関西

白、抱え咲(玉咲)の一重、花冠に比べて大きい筒、蕾が丸い。花は中、小、葉は楕円~卵形、中、葉縁わずか外曲、樹勢は立性、強、枝の伸長良好、別名白玉は本種の葉に斑のはいったもの。

微笑(みしょう) 秋咲き 愛媛産

淡桃地に白斑、薄紅がほどよく混ざる。一重、中ふくらみのある筒咲き、筒芯、葯は不完全、葉は楕円~長楕円、中、鋭尖頭鋭脚、葉身やや中折、反曲、濃緑、樹は横張性、中、樹姿は胡蝶侘助によく似る。子房は有毛。原木は一株しかなかったのが枯死。接木繁殖。

つらつら椿 春咲き

濃紅、弁端少し切れ込む長い花弁、一重、長筒~ふくらみのある大ラッパ咲き、長筒芯、花は中、葉は楕円、中、全体に波曲が出る。樹立性、強、大和巨勢山の産。蕾は堅い。