冬の万葉の森は常緑樹を除いてすっかり葉を落としてしまいました。
フジバカマは本来中国産のもので、わが国へは奈良時代以前に渡来し帰化したと言われています。秋の七草の歌は万葉集巻八に山上憶良が詠んだ二首がありますが、フジバカマについては一首だけです。それでもフジバカマの名はよく知られています。筆者もフジバカマらしいものを何回も手に入れましたが、ヒヨドリバナかサワヒヨドリ、ヨツバヒヨドリの仲間でした。二年前、町内の田を借りて本物の山野草類を栽培していた方が仕事を止めて引き揚げるときに本物のフジバカマをいただくことができました。葉や茎の形の違いもさることながら花が咲くと少し離れていてもフジバカマ特有の香りがします。特に乾燥すると芳香を発するので、これを頭髪にかくしたり、匂袋に入れて身につけたり、浴湯料としたり、頭髪を洗ったりなどその香りを利用します。
フジバカマの古名はらん(蘭)で、秋蘭(あきらん・しゅうらん)とも言われています。ラン科の植物ではないのに香りのよい植物にランの名前をつける風習は珍しくはありません。
オケラは万葉名(うけら)、集中三首ありますが、オケラ以外の植物は詠まれていません。食べておいしい野草のひとつです。長野県の俚謡で「山でうまいはオケラにトトキ(ツリガネニンジン)、里でうまいはウリ、ナスビ」とうたわれています。四~五月頃、柔らかい若芽がまだ白い綿毛に包まれているところを摘みとってあえものやおひたしにしますが、くせがない味で好まれます。
オケラ属の地下茎も特有の芳香をもち、健胃、かぜの予防などの薬効があり、平安時代から一年の邪気を払う元日の屠蘇に使われています。屠蘇はふつう紅絹の三角袋に、このオケラのほかにサンショウ、ボウフウ、キキョウ、ミカンやニッケイの皮などを入れます。また焚蒼といって、京都では梅雨の頃オケラの地下茎を倉庫などでいぶしました。湿気を払い、衣類や和本などのかびを防ぐ効果があるので、大原女が京都付近の山野のオクラを採って売り歩いたといわれています。(週刊朝日百科世界の植物より)
オケラは県内でも少ない植物で、高縄半島周辺では伯方島に自生が見られます。雌雄異株で花は九~十月開花、雌株の小花では雄しべは退化した葯があるだけで花粉はできません。充実した種子がなかなか出来にくいことがあります。
オオタニワタリ。万葉名みつながしは(御綱葉)集中一首の歌に六種類の植物が登場している異説のある植物です。みつながしはに最も近い植物として総合公園内に多く自生しているカクレミノを取り上げているので問題はないのですが、これにつづくオオタニワタリを教材植物として取り上げました。オオタニワタリにはまだミツナカシハという名がないというのが反対者の意見ですが、大型の葉で古くは神事に用いられたり、みつながしはを紀伊国、熊野の岬で取って帰ったという地にオオタニワタリも自生があるなど有力な植物の一つです。暖地性のシダ植物で、筆者宅では胞子が飛んできて小苗がいくつも育っています。暖帯性なのでハマオオモトと同様、万葉の森での越冬が心配です。