万葉の森(40) 植物園づくり

八月八日の立秋が過ぎると筆者宅では最低気温は二十ー~二十三度、最高気温は二十七~二十九度でここ四、五年間の記録と比べると気候不順のようです。今回は水田の雑草(害草)で万葉人が詠んだ植物を取り上げてみましよう。

21 イヌビエ(ノビエ)(いね科)〔万葉名…ひえ〔比要)〕

打つ田には稗は数多(あまた)ありといへど 択(え)らえしわれそ 夜ひとり寝る

作者不詳巻十一-2476 集中 二首

「打って耕した田にも稗は沢山あるというけれど、稗のように採り捨てられた私は、夜もひとりで寝ることよ」

女性の訴えで自分は稗よりもひどく扱われているとひがんでいる歌です。

26 ウキクサ(うきくさ科)〔万葉名…うきまなご(浮沙)〕

解衣(とききぬ)の 恋ひ乱れつつ 浮沙 生きてもわれは あリ渡るかも

作者不詳巻十一-2504 集中 一首

「解き衣の乱れるように恋い乱れつつ水に浮く浮草のようにはかなく生きて、私は命をながらえている」

水田、沼、みぞなどの水面に浮游する多年生の水草。日本全土に分布する水田の雑草、六~八月ごろ、まれに白色で小さい花をつける。晩秋に母体より生じた円形の冬芽が母体から離れると、すぐに水底に沈んで越年し、翌年、温暖になって再び浮かんで繁殖する。表面は緑色で光沢があり、裏面は紫色をおびている。アオウキクサは表面は緑色、裏面は淡緑色をしているので、この名がつきましたが、この二種類は混在しています。

65 コナギ(みすあおい科)〔万葉名… なぎ(水葱)〕

春霞 春日の里の 植え子水葱 苗なりといひし枝はさしにけむ

大伴駿河麻呂 巻三-407 集中 四首

「春日の里に植えられたかわいい水葱はまだ苗だと言っておられましたが、それはもう枝が繁ったことでしょう」

あなたのお宅の娘さんはまだ幼いと聞きましたが、もう大きくなり、娘さんとして結婚できるぐらいに成長したでしょうという歌でしょう。 コナギは池沼や水田に自生する水生の一年草。古くはセリやハスなどと同様に栽培されていました。現在は水田の害草です。これはイネの肥料を吸収してしまうからです。 葉をひとつまみの塩を入れた熱湯でゆで、冷水にさらして酢みそ和えや油みそ、炒め煮にすると現在でも食べられます。八~九月に咲く紫の可憐な花で摺り染めができます。

137ヒルムシロ(蛭席)(ひるむしろ科)〔万葉名…たはみづら(多波実豆良)〕集中 一首

蛭席はその葉をヒルの居所にたとえての呼び名(牧野)。池沼、水田などの水中に生ずる多年草で浮水葉、沈水葉をもち、地下茎を泥中に延ばし盛んに繁殖する。水田で繁殖する時は、その根を除去するのが困難な強害草です。花期は六~十月。桜井の高麗池で見つかりました。(松山市では絶滅危倶Ⅱ類)

164 タデ類(たで科)〔万葉名…たで(蓼)〕集中 三首

タデの種類は多く、大きく陸地生と水地生に分けられ、前者は多年生、後者は一年生。いずれも日本全土に広く分布する田畑の害草です。葉がヤナギに似ているヤナギタデは茎葉をかむと大変辛いので他と区別ができ、実生を料理の辛味に使います。四~十一月ごろまでいろいろなタデが花を見せてくれます。玉川ダムでも水が減ってくるとシロバナサクラタデの群落が見られます。

181 アシ・ヨシ(いね科)〔万葉名…あし(犀)〕集中 五十一首

日本の古代から日本人の生活に密着してきた植物で、用材として幹は苫葺(とまぶき)簾(すだれ)などに用い、根茎を利尿・解毒など薬用にする。

188 デンジソウ(でんじそう科)〔万葉名…はなかつみ(花勝見)〕集中 二十四首

はなかつみについて諸説(八種類登場)があって一定していません。筆者が意図的にデンジソウを取り上げたのは二○○二年松山市が絶滅種と決定したからです。ノハナショウブもその仲間なので、この二種類は万葉の森で保護しなければならない植物にしました。