万葉の森(22) 植物園づくり

93 セリ(せり科) [万葉名:せり(世理・芹子)]

あかねさす昼は田(た)賜(た)びてぬばたまの 夜の暇(いとま)に 摘める芹(せり)これ

葛城王(かつらぎのおほきみ) 巻二十-4455
万葉集中 二首

この歌の返歌が次の歌です。

丈夫(ますらを)と 思へるものを 太刀佩(たちは)きて かにはの田(た)居(ゐ)に 芹(せり)子そ摘みける

薜妙観命婦(せちのみょうかんみょうふ) 巻二十-4456

セリは春の七草の一つ。正月七日、神前に供え、かゆにして食すと病気よけ。解熱、利尿、貧血、高血圧の防止。

160 メハジキ(しそ科)[万葉名:つちはり(土針)]

わが屋前(やど)に生ふるつちはり心ゆも 思はぬ人の 衣(きぬ)に摺(す)らゆな

作者不詳 巻七-1338
万葉集中 一首

メハジキは全国各地に自生する越年草。茎は四角で、下部の葉は大型で深く三裂。夏から秋にかけて淡い赤紫色の唇形花を輪状につけます。全草を止血、強壮、利尿。種子を利尿、鎮静剤として用います。

125 ハマユウ(ひがんばな科)[万葉名:はまゆふ(浜木綿)]

み熊野の 浦の浜木綿(はまゆふ) 百重(ももへ)なす 心は思へど ただに逢はぬかも

柿本人麿 巻四-496
万葉集中 一首

ハマユウは関東南部以西の暖地の海岸に生える常緑多年草。愛媛県内では三崎半島以南の海岸の砂礫地に稀に見かけます。万葉の森でも防寒をすれば冬越しができると思います。夏に花軸を伸ばして十個内外の白くて芳香のある花をつけます。夕方から開き始め夜中に全開して強い芳香を放ちます。
いくら思ってもあの人にはじかに逢えないもどかしさを茎も葉も花も力に充ちたハマユウに託して熱烈な恋心を歌ったものと思います。

168 ヤブラン・ジャノヒゲ(ゆり科)[万葉名:やますげ(山菅)]

妹(いも)待(ま)つと 三笠の山の 山菅の 止まずや恋ひむ 命死なずば

作者不詳 巻十二-3066
万葉集中 十三首

山菅については、ヤブラン・ジャノヒゲと山にあるスゲ類の説がありますが、前二者はゆり科、後者はかやつりぐさ科です。古名スゲはカサスゲで沼沢水辺の地に生える大形の多年草で、山にあるスゲ類ではないと思われます。山に生えているスゲとすれば万葉の森にも現在自生しているジャノヒゲやヤブランが最も適切な植物と解釈して取り上げました。両者とも観賞、薬用として球根や根榴を強壮薬・去痰・解熱・鎮咳などに用います。

37 ヤマユリ(オニユリ)(ゆり科)[万葉名:ゆり(由利・百合)]

燈火(ともしび)の 光に見ゆる さ百合花(ゆりばな) 後(ゆり)も逢はむと 思ひそめてき

内蔵縄麿(くらのはなまろ) 巻十六-4087
万葉集中 十一首

十一首詠まれている中で、さ百合としたのが八首、草深百合が二首、姫百合が一首あります。万葉集にさ百合と詠まれているのはヤマユリかササユリで、ヤマユリは中部地方以北に自生、ササユリ、ヒメユリは中部地方以西に自生しています。愛媛県内にも大野ケ原、大川嶺など標高千五百メートル前後に自生していますが、標高百メートルそこそこの万葉の森での栽培はなかなかです。とりあえず元気なオニユリを取り上げていますが本意ではありません。