雄神川(をかみがは) 紅にほふ 娘子(をとめ)らし 葦附(あしつき)採ると 瀬に立たすらし
大伴家持 巻十七-4021
万葉集中 一首
「雄神川が赤裳の色が水に映えて、紅の色が美しく映えています。あれは少女たちが葦附を採ろうと、浅瀬に下りて立っているらしいですよ」
雄神川は今の富山県の庄川。アシツキノリは葦の根につく淡水藻、寒天状で暗褐色、三cm位の大きさ。主にそのまま生食したり、乾燥して貯蔵し食べたい時に水にもどして食べます。全国に数箇所このなかまが自生していますが、すべて天然記念物に指定されているので実物を手に入れるのは困難です。
春の野にすみれ採みにと来(こ)しわれそ 野をなつかしみ 一夜(ひとよ)寝にける
山部赤人 巻八-1424
万葉集中 自首
「春の野にすみれを摘もうとして来たが、その野に心を引かれて一晩野で寝てしまったなぁ」
スミレは日本に約五十種あります。四~六月に咲くのが普通ですが、白色のエイブンスミレが十二月に咲いていました。薬用や食用にするのは濃紫色の普通のスミレです。
ほととぎす 厭(いと)ふ時なし 菖蒲草 かづらにせむ日 こゆ鳴き渡れ
作者不詳 巻十八-4035
万葉集中 十二首
「ホトトギスはいつ来て鳴いてもいやという時はない。しかし同じ鳴くならショウブをかづらにする五月五日の頃にここを鳴いて通りなさいよ」とホトトギスに訴えている歌です。
あやめぐさは菖蒲草と書かれていますが、菖蒲というのはさといも科のセキショウの漢名です。ショウブの葉がこのセキショウに似ていたのでショウブにこの漢名が当てられたのです。どちらも香草で全草に芳香があり、根茎は薬用に、茎葉は端午の節句の菖蒲湯に使います。五月五目にはこのショウブとヨモギを軒にさし、菖蒲湯に入るという行事が全国的に行われていましたが、、現在はあまり見かけません。
あしひきの山の木末(こぬれ)のほよ取りて 挿頭(かざ)しつらくは千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ
大伴家持 巻十八-4136
万葉集中 一首
「山の木の梢に生えているホヨを採って、挿頭にしたのは、千年も長命をするように祈ってのことです」
ヤドリギは半寄生植物で、葉には葉緑素をもっていて自らも光合成をしています。頓田川中流の川岸には手の届くような小枝に、楢原山には見上げるような梢に生えています。昨年の秋、種を採ろうと出かけましたが実がなく、今年の秋、再度挑戦するつもりです。
山高み 白水綿花(しらゆふはな)に 落ち激(たぎ)つ 滝の河内(かふち)は 見れど飽かぬかも
笠金村(かさのかなむら) 巻六-909
万葉集中 四首
「山が高いので、白木綿花の散るように、落ちて砕け散る河内は、見ても見飽きない眺めでありますよ」