万葉の森(3) 植物園づくり

今回は植栽をしているもの今後植栽を予定している草本植物についてお知らせします。
植物の名前は、現在使われている標準和名で書いていますが、一二〇〇年から一六五〇年もの大昔に詠まれた歌を収録した「万葉集」には現在の植物名とは全く違った名前がつけられている例がたくさんあります。
次に挙げる植物目録の中で植物名の後に数字を○で囲んでいるものは、万葉歌人が詠んだ一つの植物に対して○内の数だけ他の植物が仲間入りしているものです。歌に詠まれた植物が現在どのような標準和名となっているか決めるために研究者の間に論争が起こります。千数百年の昔を振り返っての論争はかえって夢があって楽しいかもしれないし、定説を打ち立てる努力も大切です。
アカネ、アサ、アサガオ④、アジサイ、アミガサユリ②、アヤメ③、アワ、イヌビエ、イネ、ウキクサ④、オオムギ、オギ、オキナグサ②、オケラ、オニユリ④、オミナエシ、カキツバタ③、カサスゲ②、カタクリ②、カナムグラ③、カブ、カワラナデシコ、キビ、クズ、クログアイ⑤、ケイトウ③、コケ③、コナギ④、サトイモ、サワヒヨドリ③、サンカクイ③、シバ、ジュンサイ⑤、シュンラン②、ショウブ③、シラン、ススキ、スベリヒユ⑤、スゲ、スミレ②、セキショウ③、セトノジギク⑤、セリ、チガヤ、ツユクサ②、トコロ⑤、ナンバンギセル④、ニラ、ノキシノブ②、ノビル、ハコネシダ③、ハス、ハマオモト、ヒオウギ、ヒカゲノカズラ、ヒガンバナ⑤、ヒシ、ヒトリシズカ②、ヒメユリ、ヒルガオ⑤、ヒルムシロ⑤、フサモ、フジバカマ、フトイ、フユアオイ④、ヘクソカズラ、ベニバナ、ホンダワラ、マクワウリ、マコモ②、ミル、ムラサキ、メハジキ⑤、ヤナギタデ、ヤブマメ③、ヤブカンゾウ④、ヤブラン、ヤマアイ、ヨシ、ヨメナ、ヨモギ、ワカメ、ワラビ
以上八十三種、うち半数近くに二種以上の別の植物が含まれているので、全部の種を集めると百七十種類を超えることになります。私たち自身、特定の一種を選択する仕事が待ち構えています。
今回取り上げた草本植物には、栽培が困難な藻類、水草類なども含まれているので、これらは乾燥標本、写真などで展示する必要があります。
入手しにくいアサ、ベニバナなどは、一昔前でしたら家で自由に栽培したり、小鳥の餌としてベニバナの種子は手に入りましたが、今はなかなかです。絶滅危惧種のムラサキは三十数年前、恩師が松山市に万葉植物園を作るのをお手伝いしたおり、いただいたのが生き続けていたので助かりました。ムラサキはその名前を知らない人はいないくらい有名な植物ですが、実際に見たことがある人は少ないでしょう。作ってみるとなかなか難しい植物で、種子は毎年できるのですが手まめに実生苗を育てておかないと絶滅します。根が紡錘状に肥大するので安心していると翌春芽が出てきません。目立つ植物ではありませんが、染料として天平(七二九年~七四八年)のころから江戸時代に至るまで重用され、紫染めの染料として利用されました。ベニバナの万葉名は「くれない」ですが、ムラサキは万葉名も「むらさき」で一八〇〇余年の昔から同じ名前で通っているのも珍しい。
万葉植物園づくりは、木本植物の植え込みが先行しています。

  1. ① ベニバナ
    万葉名「くれない」 歌三十余首
    草丈は約一メートルくらいで、アザミに似た橙黄色の頭状花をつける。口紅、絵具染料、また薬用として便秘、頭痛、血行障害、食用として種子から油をとる。
  2. ② ムラサキ
    万葉名「むらさき」 歌十六首
    多年草で高さは五十センチくらい。花期は六月から八月で、白い小花をつける。根は紫の染料として、また乾燥させると皮膚病、解毒、解熱、切り傷、やけど、じ疾の薬となる。