前回で草本植物についてお知らせしましたが、今回は実際に植えたもの今後植え付ける草本植物をご紹介します。
万葉集に「うけら」のでてくる歌は三首ありますが、該当する植物はオケラ一種ですので迷う必要はありません。町内では見かけませんが、越智郡の島々に自生しています。
オケラは目立たない花をつける植物の代表として「オケラの花のように顔色に出すな」といった歌が詠まれています。また、『山でうまいはオケラにトトキ(ツリガネニンジン)』と言われるくらい若芽がおいしい山草です。漢方では、その根茎を健胃、整腸、利尿、発汗に、また新年の祝い酒のお屠蘇にも入っています。
雌雄異株で、我が国で栽培するのは雌株だけで雄株がないので果実ができないといわれていますが、筆者宅では種子も採れます。
歌は十一首、該当する植物はゆり科のヤマユリ、ササユリ、ヒメユリ、オニユリの四種です。姫百合と植物名をそのまま詠んだ歌は一首で、さ百合と詠んだのが八首、深草百合が二首あります。万葉に関する植物辞典には『万葉集にさ百合と詠まれているのはヤマユリかササユリである。一般に山野に自生するのは関東ではヤマユリ、関西ではササユリ…』とあり、万葉歌にふさわしいユリはこの二種になりそうです。
姫百合が詠まれた歌は一首あるので、この歌を取り上げるとすれば当然ヒメユリを植え付けなければなりません。ヤマユリは県内に自生はなく、ササユリ、ヒメユリは標高千メートルから千五百メートルの高地に自生しています。これらの百合とは筆者も十数年付き合っていますが、平地ではなかなか付き合いにくい植物です。町内に自生しているオニユリやコオニユリを植え付けるわけにもいかないので、難題の一つになりそうです。
あさがほの万葉名に該当すると考えられる植物は、キキョウ、ムクゲ(あおい科)、ヒルガオ(ひるがお科)、アサガオ(ひるがお科)の四種です。
「あさがほ」という呼び名は万葉集に初めてでてきた名前で、歌は五首あります。有名な秋の七草の歌がその一つで、この一首だけに七種類の植物を詠みこんでいる変わった歌です。
「あさがほ」が現在どの植物を指しているかの論争は古く(約一千年前)からなされており、現在はキキョウが定説となっています。
現在のアサガオではない理由として、歌に出てくる『夕影に咲く花』ではないこと、先ほど述べた七種(くさ)の歌の先行歌に、『秋の野に咲きたる花』とあるが野の花ではないこと、万葉時代には日本にはまだ渡来していない花であることを挙げています。またアサガオは夏の花であり、秋の七種(くさ)にいれるのは秋を代表するキキョウが適切であるとしています。
ヒルガオは別名(地方名、方言名)で朝顔、野朝顔、蛇朝顔などと呼ばれていることからヒルガオ説を唱える人もいますが、問題点が多すぎることから定説となっていません。
ムクゲ説は古くから支持する人が多かったようです。しかし、ムクゲは中国から渡来した木槿(もくきん)という木であり草ではないことから秋の七種の歌にはそぐわないようです。
どの説にも問題点はありますが、現在定説となっているキキョウ説を採ることにしました。